生態系や環境のつながりから、複雑な生物群集の成り立ちを理解する。
私たちをとりまく自然はとても複雑です。生態系はさまざまな環境から成り立ち、資源や生き物は生態系や環境の境界を超えて移動します。このような、境界を超えた資源や生き物の移動は、ある場所に成り立つ生物群集へどのような影響を及ぼしているのでしょうか。さらに、昨今の気候変動によって私たちの目の前で生態系のバランスが崩れはじめていますが、境界を超えて移動する資源や生物は生態系や生物群集の変化にどのように寄与しているのでしょうか。それらの疑問への答えは、生態系や生物群集の成り立ちやその変化を駆動するプロセスに関する一般的な答えとなり、さらに、気候変動に対する生物多様性保全への有効なアプローチを提供するかもしれません。
この問いを検証するのに適したモデルの1つが、高山生態系です。高山生態系を特徴づける高山帯は、森林が成立できない高標高域に成立しています。そして高山帯は生産性が乏しく、生息する生物種の数が少なく、食物網の構造が比較的単純で、近年さまざまな低地性の生物が侵入しつつある環境です。さらに、年によって積雪や気温といった環境が大きく変動するという"自然の実験場"としての特性を有しています。また、高山帯には周囲を取り囲む森林から昆虫が供給されており、高山帯に生息する消費者の重要な餌資源となっていることがわかってきています。そのような高山帯の環境特性を生かして研究することで、境界を超えて移動する資源や生物が生態系や生物群集の変化にどのような影響を与えているのかをはっきりと示すことができます。
私は高山域に成立する鳥類群集、昆虫群集を用いて以下のテーマを研究しています。
1) 山麓から高山帯への資源補償が引き起こされるメカニズムの解明
2) 山麓から高山帯への資源補償が、高山帯の鳥類群集構造に与える影響の検証
3) 気候変動に伴う気温上昇や融雪時期の変化が、資源移動を介して高山生態系に与える影響の予測
人為的な環境撹乱が、生物群集の改変を通して引き起こす進化を理解する
急速な環境の変化は、生物群集の成り立ちだけでなく、生物の進化をも引き起こすことが近年の研究で明らかになりつつあります。特に、独自の生態系が成り立っている高山帯や海洋島の生態系では、人為的な撹乱が生態系に与えるの影響が顕著であることが示されてきました。しかし、人為撹乱による生物群集の変化を通して生物の進化が引き起こされたことを明示した研究は意外にも多くありません。東京から約1時間で訪れることができる伊豆諸島は、優れた研究場所です。なぜなら伊豆諸島では1970年代から鳥類群集構造が大きく変化し、森林伐採や外来種の移入などの環境の改変が近年引き起こされたことが明らかとなっています。そこで私は、伊豆諸島の鳥類と無脊椎動物を対象として、人為撹乱が食物網の変化を通して生物にどのような進化を引き起こしたのかを共同で研究しています。
その他の研究テーマ
1) 群集構造の地理勾配を形作る機構の解明
2) 高山性鳥類群集の季節動態を駆動する機構の解明
3) 植生遷移の進行に伴う鳥類群集構造の変化過程の記述